鷹のぼせの独り言

外科系医療者で3児の父親です。ご覧のとおりの“鷹のぼせ”です。医療、教育、書評、そしてホークスについて熱く語ります。

ホークス若手投手陣について考えているうちに、日米投球数論争にまで発展した

ホークスは8月2日現在、パ・リーグの首位をキープしている。昨シーズン末に大型補強を敢行し、ぶっちぎりの優勝候補に挙げられていたが、首位とはいえ必ずしも順風満帆ではない。当初ローテーション入りしていたウルフ、寺原は怪我で離脱しており、中田、スタンリッジはローテーションを守っているものの、時々大量失点を喫する。また摂津、帆足は一時一軍を離れ調整した時期もある。このように先発陣は必ずしも安定しているとは言いがたい。このような状況では東浜や岩嵜、先日プロ初勝利を上げた飯田など、ローテーション入りが期待できる若手の力が長いシーズンを勝ち抜くにはどうしても必要である。なかでも二軍で東浜や飯田は完投勝利を多く挙げている。特に東浜は登録抹消中、二軍で3完投もしている。育成の場である二軍では通常、1試合で複数の投手にチャンスを与えて鍛えるもの。にもかかわらず、ソフトバンクの二軍投手陣は東浜を含めて計6完投。当然、12球団一だ。

 

山内孝徳二軍投手コーチ

これは今季から就任したホークスOBの山内孝徳二軍投手コーチの方針。ある球団関係者が言う。「一軍の先発で使う投手は、長いイニングを投げる必要がある。これまでのような鍛え方では、試合中の修正や苦しい時に投げる経験が身に付きにくい。二軍投手は『山内さんも古いタイプのコーチなのか。ぶっ壊される』と戦々恐々でしたが、そのあたりを承知している山内コーチは無理強いはしない。結果も出ているから、納得するしかありません」といっている。山内孝徳コーチは南海ホークスのエースとして活躍した。決して上背は高くはないが、闘志あふれる投球で当時弱小球団だった南海ホークスで通算100勝を達成した。南海ホークスダイエーに身売りし、福岡ダイエーホークスとして初めて福岡・平和台球場でシーズンを迎えた初戦で、当時最強だった西武ライオンズを気迫のこもった投球で勝利したのを今でも覚えている。引退後は福岡でホークス戦を中心に野球解説者として活躍したが、今シーズンよりホークスの二軍投手コーチに就任した。秋山監督と同郷の肥後もっこすであるが、頑固者なのかどうかは実際に話したことがないので分からない。おそらく、「投手のスタミナは投げることによってしか得られない」という方針があるのではないかと思う。その方針が新しかろうが古かろうが、そんなことは実はどうでもいい。プロは結果を出さなければならない。結果を出したものが正しいと評価される世界。ホークスの苦しい先発ローテに割って入り、活躍する若手投手が一人でも増えるのならば、山内コーチの方針は正しかったと評価される。

 

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メジャーリーグに目を向けてみると

その一方でメジャーリーグでの大活躍が期待された田中将大投手は右肘靭帯の部分断裂という、選手生命を左右する怪我に見舞われている。田中投手は昨年の楽天イーグルス初の日本一に貢献した大投手であり、昨シーズンの成績は24勝0敗。一人で24もの貯金をつくった。今年入団したニューヨーク・ヤンキースでも活躍していた矢先の怪我である。
そんな状況下、田中の故障を考える上で、ある指標が注目されている。PAP(pitcher abuse point)という米国の野球専門のシンクタンク「Baseball Prospectus」が考案した指標で、いわば「投手酷使指数」である。
先発投手が1試合で投げた球数から100を引き、その数を3乗した数を算出(例えば110球なら、10の3乗で1000ポイント、140球なら40の3乗で6万4000ポイント)。これを毎試合累計して、シーズン通算で10万ポイントを超えると故障の可能性が高まり、20万以上で「いつ故障してもおかしくない水準」と見なされる。
 

PAP 日米の違い

ここで日米の主な投手のPAPを比較してみる。
 
金子千尋(オ):先発29 球数3284 PAP47万666
田中将大(楽):先発27 球数2981 PAP21万4666
楽天でのポストシーズン):先発3 球数407 PAP24万3683
摂津正(ソ) 先発25 球数2698 PAP22万5207
 
T.リンスカム(SF):先発32 球数3279 PAP13万2001
C.J.ウィルソン(LAA):先発33 球数3651 PAP10万8692
ダルビッシュ有TEX):先発32 球数3451 PAP9万8298

 

このように日米で全く数値が異なる。ホークスの摂津は先発転向前は中継ぎで活躍しており、その時期のデータは分からないが、勤続疲労という点で考えるととてもメジャーリーグの常識では考えられないような登板をしていたことになるだろう。
 
「これは中4日で投げるために球数を少なく抑えるアメリカと、中6日空けるからその分完投を目指す日本の考え方の違いが根底にあります。アメリカの“肩や肘は消耗品”という考え方は、登板間隔よりも、球数を重要視しているのです」と『プロ野球なんでもランキング』(イースト・プレス刊)の著者で、プロ野球データに詳しいライターの広尾晃氏は言う。昨年の日本シリーズの第6戦では、田中将大は160球を投げ完投し、負け投手になったが、160球投げた場合のPAPは、216000となりメジャーにおける基準を遥かに超えてしまっている。PAPの観点から見た場合は、田中将大の力投は狂気の沙汰というしかないのだ。また球数が100球を超えると防御率が悪化する、というデータもあるようだ。ただしこの指数が科学的根拠に基づいた値であるかどうか、信ぴょう性は明らかではない。いかにもアメリカらしいといえばそうなのだが、そういった指数を元に投手の酷使を避け、息の長い投手生命を迎えることができるように環境を整えることがチームの勝利、経営に繋がっていくのならば、価値がある評価方法といえる。
 
日本では、昨年の春の選抜で済美安楽智大投手の登板過多が話題になった際、日本の球団のスカウトも、限度を越えた起用に疑義を唱えていた。しかし実際問題、本音の部分では甲子園や高校生の舞台で熱投するピッチャーにいまだに魅力を感じているフシがあり、力投するも敗れると「悲運のエース」と持ち上げる。そこには日本の国民性も関与している可能性がある。
 

日米の国民性の違い?

話は本題から外れるが、百田尚樹著「永遠のゼロ」に書かれてあったが、太平洋戦争時、アメリカ軍はいかにパイロットを失うことなく戦えるかを基本線として戦闘機のイノベーションを行ったようだ。一方日本軍は戦闘機の性能を高めることに重点を置いたため防御システムが貧弱となり、その結果人的資源とも言える優秀なパイロットを多数失う結果となった。アメリカは戦争といえども人命を重視した戦略を練り、日本は結果的に人命を軽視した戦争を継続するしかなかった。断っておくが、その後のベトナム戦争湾岸戦争などのことを考えると、決してアメリカの政策・戦略を支持するわけではない。ただし、時代も異なり、戦争と野球は全く比較できる問題ではないのだが、アメリカは客観的なデータを算出し、その数値に基づいた合理的な戦略をどんな状況においても採用しているように見える。
 
振り返って、田中投手の故障が重傷だと判明した後の我が国の報道を見ると、故障の原因を「メジャーのマウンドの堅さ」や「中4日の登板間隔」、「日米のボールの違い」など、メジャーの問題点探しに終始していることが多いようである。しかし、彼が野球少年だった頃からの登板過多という問題も検証する必然性はあると思う。田中の故障の原因がメジャーの舞台だけにあると考えることは、日本の野球界に何の発展ももたらさない。我々が考えるべきは、メジャーに責任を転嫁することではなく、高校野球も含めた日本の野球界に問題がなかったかを検討し、同じような悲劇を起こさぬ方法を考えることなのではないだろうか。さらにそうすることによって、「合理性をどこまで追求するのか」などの日米の国民性の違いが透けて見えてくるかもしれない。ホークスの先発陣について考えているうちに、日米投球数論争にまで話題が広がってしまった。
 

 

永遠の0 (講談社文庫)

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